一生忘れないであろう一日になりました。メルボルンに昨晩着いたばかりだから、今日は家族とノンビリ・・・と思っていたのですが、Amacから今日と明日はRobと練習するから来いとのお誘い。
AmacというのはAndrew Mcdougallという56歳のオッサンです。モス界では誰もが知る有名人であり、変人、クレイジードクター、マッドサイエンティスト。モス教のグル、尊師。なにせいま世界で飛んでいるモスの80%以上、セールの90%以上は彼の作品なのですから。
そして練習相手のRob Goughというのはタスマニア在住の肉団子みたいな42歳のオッサンで、非公式ながら31.7ノットのスピード記録を持っています。今年のワールド8位。
そんな連中と一緒に練習できるなんて、夢のような話です。いわば虎の穴ならぬ、蛾の穴。しかもパースでメダルレースを観戦してヨット乗りたさもMAX状態。取る物も取り敢えず海に出ました。
ここでもう一つ説明すると、AmacのクラブはBlack Rock Yacht Clubといって、99年に470のワールドが行われたクラブです。(翌年のシドニー五輪選考で車が燃えたクラブといった方が有名かも知れませんが・・・)とにかく風が強くて波が高いことでつとに有名なクラブなのです。470の時ですら怖くてたまらなかった思い出があります。
ここでモスに乗るのはオフショアの波のない時くらいしかムリだと思っていました。でも興奮状態のまま海に出ちゃった。そして2分で気がつきました。あぁブラックロックだ。これ普段通りのブラックロックだ。走れねえよ、走れる訳ねえよ!
強烈な風と波に翻弄されて、借りたMach2のフォイルがトラブり、これはもう自力では帰れないなと思っていたところにAmacが現われました。この風と波の中で巧みに走らせ、僕を助けに来てくれたのです。そしてフォイルを一瞥した彼は、「オレがこのフネを陸に戻すからお前はしばらくオレのフネに乗ってろ」と言いました。
マジで?
マジで乗っていいの?
Amacのフネになんて、世界チャンピオンでも乗せてもらえません。折れかけた心にやる気がみなぎります。 Robと合わせてクローズを走ると、速っ!なんだこのフネ?メチャクチャ速い!江の島の南西よりも高い波の中で、安定してビュンビュン走っていきます。
あぁ、なんかすげー上手くなった気がする。え?Rob落とそうって?よし、いくぜダウンウインド。
ギャーーーーーーーー
パンパーン(身体が海面2回跳ねる音)
やばい。やば過ぎる。やっぱムリだ。
Black Rock + Moth + Down wind = impossible
とAmacのフネですら心が折れた頃に尊師がボートで戻ってきました。
乗り変わってボートから見たAmacとRobの練習には、ハンマーで頭をぶん殴られたような衝撃が走りました。1月のワールドでは、あれほどの風の中で乗れることに驚きましたが、波はなかった。こんな高い波のダウンウインドでモスを乗り回す56歳と42歳。カッケー、しびれるなチキショー。
目に焼き付けようとかじりついていると、ボートを運転しているリッキーが「お前は頭で考えてるから遅れるんだ。ハートで感じろ。」とのアドバイス。さらに追い討ちをかけるようにAmacからもっかい乗るか?との誘われました。
やってやろうじゃないか。
ここで乗らなきゃ男がすたる。
折れた心をもう一度繋ぎ、Amacの見様見まねでダウンウインドを走り出すと、いままで限界だ、危ない!と思っていた瞬間をステアリングで切り抜けて、面白いようにフネが滑ります。速い、とにかくとんでもなく速い。ジャイブも決まって、波をむしろ楽しんで走れるコツをつかみました。ふり返るとAmacとリッキーも興奮しています。
「頭で考えるな。ハートで感じろ」
南半球で3人のオッサンに教わったこの言葉は、僕の心をヨット始めたばかりの少年に戻してくれました。ジェダイに一歩近づいた、かな?明日もマスターヨーダと練習です。