90年代に圧倒的な速さでスナイプ界の頂点に上り詰めた、北欧デンマークのピアソンスナイプ。スナイプ乗りなら誰でも知ってるNo.1ブランドですが、生産しているDBマリンをご存じの方は少ないかも知れません。

ピアソンマリンは2004年に自社での建造をストップし、イタリアのスターマリン社に生産を委託しました。しかし、このスターマリンは元々ディンギー建造の経験が浅かったことが災いし、アカ漏れや強度不足によるクラックなどの問題が頻発。事態を重く見たピアソン社のヤン・ピアソン氏が白羽の矢を立てたのが、スターマリンの従業員として奮闘していたエンリコ・ミケルでした。

スナイプの建造に集中するため、エンリコは2007年にDBマリンを設立。ピアソンスナイプのモールドと建造ライセンスをスターマリンから譲り受けました。DBピアソンスナイプは、世界選手権を筆頭に数々のスナイプの国際レースで順調に勝ち星を重ね、30年以上の長きに渡ってスナイプ界に君臨してきたピアソンの名を継ぐものとして、確固たる地位を得ることに成功したのです。

しかし、技術開発でしのぎを削るライバルたちも黙っていません。2011年の世界選手権ではスペインのZelticというビルダーのスナイプが優勝し、1993年から9回連続で続いていたピアソンの連勝記録を止めました。（スナイプの世界選手権は2年に1回、奇数年に行われます）また、国産ビルダーのオクムラボートや辻堂加工も、近年相次いで新型のスナイプを開発し、好成績を挙げています。

ボクシングでは、防衛戦の方が難しいと言われるように、王者が守りに入ったら追いつき、追い越されるのが世の常です。

昨年ワールドタイトルを失ったDBマリンも攻めに転じ、密かに新型スナイプの開発を始めました。まずは従来のピアソンハルをミラノ工科大学と共同で徹底的に研究（リバースエンジニアリング）。そのデータを元に、ラ・スペツィア大学でCFD（流体力学解析）を行い、さらにナポリ大学が持つヨーロッパ最大級の水槽でタンクテストを実施。まるで一昔前のACシンジケートがやるような科学的で大掛かりな開発手法ですが、スナイプの話です。

研究の結果得られた最適な船形をCNCで削り出し、先日ついにモールドが完成したと連絡がありました。早ければ4月にはDB-R1ピアソンと呼ばれる新艇がデビューする予定です。誕生から80年経てもなお、ますます熱いスナイプ。DB-R1の続報が入ったらここでお知らせします。