国際レーザー協会と、デザインの版権を持つブルース・カービー社の紛争が話題になっています。世界で最も普及した、スタンダードディンギーの愛好者たちが不利益を被らないように、早く落とし所が見つかることを祈っています。

オリンピッククラスの変遷をたどると、昔は各自の艇を好みの造船所でつくれましたが、時代と共にワンデザインクラスが増えてきました。リオ五輪の艇種のうち、49er、FX、レーザー、ラジアル、ナクラ、RS:Xがワンデザインです。ビルダーを選べるクラスは470とフィンしかありません。時代は明らかにワンデザインの流れです。

laserlondon2012しかしながら、いくらワンデザインとはいえ、まったく同じ道具を作ることは不可能なのです。レーザーであれ49erであれ、艇の個体差はどうしても存在するし、世界のトップセーラーは自分の気に入る道具を求めて、ありとあらゆる手を尽くします。悲しいかなこれが現実です。たとえ全艇チャーターの大会であっても、艇の個体差はゼロではないし、どんな道具にあたるかは運に任せるしかありません。

そもそも道具がすべて完全にイコールで、身体能力だけの勝負をしたいのなら、トレーニングジムで勝者を決めればいい。でもそうじゃない。大自然の中で、鍛え上げたカラダと、磨き上げたフネが一心同体となって走るからこそ、セーリング競技は素晴らしい。ルールの範囲で道具を改良するのもセーラーの技量です。

ワンデザインの思想を突き詰め過ぎると、セーリングの魅力をスポイルしかねません。個人的にはすべてワンデザインになっていくのは、なんだかなーと思っています。

そもそもセーリングは運の要素が大きい競技です。たまたまコースが当たって前を走ったり、その逆だったり。だからこそセーリングは数あるオリンピック競技の中でも、もっとも長い日数をかけてチャンピオンシップを戦います。数をこなせばこなすほど、運の要素が小さくなるからです。

お祭りレースならいいですよ。2-3レースで成立して、たまたま前を走った人が勝っても全然オッケー。でもチャンピオンシップはダメです。チャンピオンを目指す人が多ければ多いほど、チャンピオンシップは運の要素を最小限にする努力が必要なのです。そうしないとチャンピオンの威厳が保たれません。

SANY0214例を挙げましょう。OPの世界選手権。世界中から集まった200艇以上の選手は、国名のアルファベットとセール番号の順番で6つのグループに分けられ、3つのヒートずつレースをこなしていきます。最初から最後までグループ分けは変わりません。するとどうなるか。優勝する選手と同じグループになった選手は、全レースその選手と戦うことになるので不利なのです。僕はOPワールドに引率で4回行きましたが、チャンピオンが出たグループから2位や3位が出たことはありませんでした。本来なら2位の力を持つ選手が、4位や5位に沈むことになりかねないシステムなのです。

子供の大会だからとか、運営上その方がやりやすいとか、そんな理由は通用しないと思うんですよね。だって世界一を決める大会だし、同時に世界で2番目や100番目も正確に選ばれるべき大会だから。チャンピオンシップとして採用されるべきレース方式とはいえません。よくこの方式で文句が出ないなと毎回不思議に思っていました。

もうひとつ例を挙げると、かつての全日本インカレのチャーター艇制度。カレッジFJや420のようにシンプルな艇種ならまだしも、470やスナイプでこれをやるのは無理がありました。ビルダーもまちまち、程度もまちまち、艤装もまちまちでは、運の要素が大き過ぎます。しかもチャーター艇を出している大学が、たまたま抽選で自艇を引き当てたりする始末。自艇を引き当てるなんて、チャーターを出していないと起こらないんだから、不公平もいいところ。まったくチャンピオンシップとして機能していなかったと言わざるを得ません。

もちろんそれでも勝ったところは勝つべくして勝ったのでしょう。しかし不幸にして、例えばチャーター艇の艤装トラブルなどで順位を落とした大学も少なからずあるはずです。4年間、血のにじむような苦しい練習をしてきて、最後の大会が運に左右されるんだったら、なんのために頑張ってきたのか分からなくなりますよね。

こういうことを口にすると必ず、「条件はみな一緒じゃないか」と言われます。ではなぜヨットレースは複数のレースをするのか。1レースだけでチャンピオンを決めても、条件はみな一緒じゃないですか。どんなにド強風やベタベタでレースを強行しても条件は同じです。決められた同じルールで同時にスタートするレースなんだから、条件が同じなんていうのは、当たり前なのです。

良い例を挙げれば、昨年の岐阜国体や一昨年の山口国体。どちらも風に恵まれ、微風から強風までバリエーションに富んだなか、各クラスほぼ予定通りのレース数をこなせました。勝った方も負けた方も納得のいく、いい大会だったんじゃないかと思います。チャンピオンシップと呼ぶにはレース数が少ないけど、あれだけの艇種が集まるのだから、大成功といえるでしょう。

モスのオージーナショナルなんて、あんなにいい風の中で1週間、15レースもやるんだから。ボロ負けしたけど、ぐうの音も出ません。いつか日本であれくらいのチャンピオンシップをしたいなーと心から憧れます。

レーザーの話からだいぶ逸れてしまいました。くれぐれもレーザー級のワンデザイン思想を否定するものではないことをご理解ください。実際、ほとんどその理想は達成されています。レーザーがセーリングの普及促進にもっとも貢献しているクラスなのは間違いありません。

僕が言いたいのは、セーリングのチャンピオンシップの質を上げましょうということです。運の要素を排除しましょう。誰もが納得のいくチャンピオンを選びましょう。そうすればもっとヨットレースは楽しくなる、はずです。

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