6年前の2007年夏、お腹の大きな嫁さんと2歳の娘を日本において、OP世界選手権のコーチとしてイタリアに遠征しました。出産予定日が近いからお断りしていたのですが、どうしても来て欲しいと子供たちに言われ、もしもの時には途中で帰らせてもらうことを条件に引き受けました。
遠征中は毎日スカイプして、嫁さんの体の具合を尋ねました。画面に映るお腹は、いまにもはち切れそうな大きさです。気になって仕方ありません。
そして大会終了の1日前、「まだ大丈夫」と言っていた嫁さんが、「うーん・・・どうかな」と言った瞬間に帰国を決断しました。わずか1日の違いですが、日本近海に台風が接近しており、予定通りに帰国すると関空からの国内線が飛ばないことも予想されました。いま決断しないと絶対に後悔することになる。そう感じた僕は、同行の選手やご父兄に了承を得て、チケットの変更にとりかかったのです。
でもここからが大変でした。なにせサービスが悪いことで有名なアリタリア航空です。何度も何度もチケットカウンターに電話しましたが、誰も出てくれません。インターネットからも日付の変更はできないし。かくなる上は最後の手段と、タクシーで1時間の距離にある空港まで行って直談判です。
空港について、長蛇の列に並びながら気づきました。電話なんてムダだったと。並んでる間もカウンターの電話は鳴りっぱなしだけど、誰もとりません。人が足りないのか、能力が足りないのか、そのどちらもか、一人一人の対応にとにかく時間がかかります。やっと自分の番が来て、帰国を1日早めたいと伝えました。しかし答えはノー。できない。そんなはずない、変更可能なチケットを買ったはずだ。いやだめだ、これはできない。
30分ほど押し問答が続き、僕の後ろの列はすごい長さに伸びていますが、そんなこと知ったこっちゃありません。絶対に帰るんだ。
そしてこの押し問答を終わらせてくれたのは、意外な人でした。なんと空港まで乗せてくれたタクシーの運ちゃんが、心配になって車を降り、僕を援護しに来てくれたのです。「おい、この旦那を日本に帰してやってくれ。子供の出産に立ち会うことがどれくらい大事か分かるだろ?お前さんたちだって両親の立ち会いのもとに生まれてきたはずだぜ」あとで聞いたら、こんなことをイタリア語で言ってくれたそうです。
結果、100ユーロの追加料金で日付の変更をしてくれることになりました。その運ちゃんは、ホテルまでの復路だけでなく、翌朝も4時に迎えに来て、僕を再び空港へ届けてくれました。なんでここまでしてくれるんだ?と聞くと、自分の子供の出産に立ち会えなかったことを後悔してるからだと。
こうしてレガッタ最終日の朝、僕はイタリアを発ち、台風直撃の前になんとか帰ってくることができました。僕の帰宅から6時間後、産声をあげたのが長男の大志です。恥ずかしながら、産まれたばかりの息子に負けないくらい、僕も泣きました。待っててくれたんだと思うと、申し訳ない気持ちと、愛しい気持ちと、ありがたい気持ちがあふれてきます。
外は台風で大荒れ。翌日の飛行機はすべて欠航でした。
あの感動から6年が経ち、大志は今日で6歳になりました。この日が来るたびに、あのタクシーの運ちゃんを思い出します。間に合ったよって伝えたいなぁ。