単独無寄港世界一周レース、ヴァンデグローブ。3位を走りながら大西洋のアゾレス諸島沖でキールを失ったヴィアバック・パプレック3のジャン・ピエール・ディックが、なんとキール無しで2,500マイル以上を走り4位でフィニッシュしました。優勝したフランソワ・ガバーに勝るとも劣らない数の観客が彼の帰還を迎え、前人未到のチャレンジ成功を讃えました。
レース中盤ではトップを快走した時もありましたが、お気に入りのジェネカーを海に落としてしまい3位に後退。そこからはヒューゴ・ボスのアレックス・トムソンと白熱した3位争いを繰り広げ、レースの90%を終えた1月21日にキールを失うのです。これほど不運な男も珍しい。
60フィートのヨットにシングルハンドで乗っていて、キールを落としたら、まず普通は転覆します。そして当然レースはリタイア。しかし彼は転覆を免れ、急いでセールを下ろし、ウォーターバラストを満水にして、再帆走を始めたのです。キールは失っても2枚のダガーボードがあるので、最低限の安定性は得られるでしょうが、風上には進めないと思います。ヒールがまったく起きませんから。全長60フィートの巨大なディンギーみたいなものです。
アゾレス諸島からなんとかキール無しでフィニッシュを目指しますが、イベリア半島北西端のフィステーラ岬をかわせるかどうかが瀬戸際でした。ここをかわせなかったら、リタイアだったでしょう。なんとかギリギリかわした時にはすでにキール脱落から10日が経っていました。この間ほとんど睡眠をとれなかったはずです。岬の裏に回ってアンカリングし、疲れ切ったカラダを休めながら、フィニッシュに向かって再帆走できるコンディションを待ちました。
3日後の2月3日、後を追うライバルたちが同じ緯度に並ぶ頃合いでアンカーをあげ再帆走開始。最後の250マイルを走り抜き、前代未聞のキール無しでのフィニッシュを果たしたのです。なんたる精神力。なんたる危機対応能力。同じセーラーの端くれとして、心から尊敬します。あんた男だよ。かっこいい。
今回のヴァンデグローブは、最短記録といい、トップ2艇のデッドヒートといい、キール無しのフィニッシュといい、伝説として後世に語り継がれる大会となりました。ボルボでもフランスのグルパマが勝ったし、冒険レースではフランスの勢いが増すばかりです。