ついに恐れていた最悪の事故が起きてしまいました。アルテミスレーシングがサンフランシスコ湾でのAC72の練習中にキャプサイズ。11人乗っていたクルーのうちの1名が死亡したと発表しました。そして続報で、その亡くなったクルーはアンドリュー・シンプソンと判明しました。あろうことかスター級の金メダリストです。
イギリス出身の36歳。イアン・パーシーのクルーとして北京五輪で金メダルを獲得し、昨年の地元ロンドン五輪でも銀メダルを獲得した英雄です。スターの中のスーパースター。私生活では奥さんとまだヨチヨチ歩きのお子さんの良き父親で、最近家族をサンフランシスコに呼び寄せたばかりだったそうです。
実際にその場で何が起きたのか。警察主導の検証がこれから行われるとは思いますが、安全への備えが不十分だったとは考えにくいはずです。海上では常に複数のチェイスボートが張り付き、ドクターも同乗し、各セーラーはヘルメットとプロテクションスーツと緊急ボンベまで装備していたにも関わらず、それでも死者が出てしまった。しかもこれほど著名なトップセーラーが。この結果がセーリング界に与える衝撃は非常に大きいと言わざるを得ません。
ここからはまったくの推測ですが、片ハルがラダーの前でポッキリと折れているところを見ると、キャプサイズする前になんらかの艇体の損壊があったのではないかと思います。キャプサイズ後にハルが折れるようなロードが懸かるとは考えにくいからです。高速セーリング中に、どこか艇体が壊れ、連鎖的に崩壊したのでは。そしてその崩壊により、彼は意識を失うような外傷を負ったのではないでしょうか。意識さえあれば水中に没してもボンベを使って脱出できたはずです。
詳しくは報告を待つしかありませんが、あれだけ多くの人間がその場にいながら、ひとりの人間を救えない。それが悲しい現実です。先日、対馬沖で亡くなった一木正治さんのケースもそうです。なにが原因で、どうすれば最悪の事態を避けられたのか。そのことはセーラー全員で共有しなければなりません。それが残された我々の責務です。
いまはただ、心よりご冥福をお祈りします。
[…] 最悪の悲劇 […]