素晴らしい最終マッチでした。特にスタートから1マークを回って2ゲートまでのダウンウインドレグは、今回のAC全体を通してのベストバウトだったと言えます。40ノットオーバーの2艇がテールトゥーノーズで競り合う様は圧巻でした。
一瞬も気を抜けないバトルは上りレグの前半まで続きましたが、オラクルが前に出てからは、ぐんぐん差を広げて、最終的には44秒の差をつけて勝利。絶対に不可能かと思われた、アメリカスカップ防衛を成し遂げました。セーリング史上最速のマッチレースは、セーリング史上最大の逆転劇を生んだのです。
あの逆境をはねのけて勝ったオラクルはもちろんですが、僕は敗れたエミレーツにも最大級の賛辞を送りたい。今回のACが歴史に残る素晴らしい戦いになった最大の功労者は彼らだったと思います。最初にAC72をフォイリングさせたのも、フォイルジャイブを成功させたのも、アップウインドフォイリングを見せてくれたのも全部彼らでした。彼らは常に先頭を走って、限界を押し広げてくれました。
それにしても8対1の状況からあと1勝が出来ないなんて・・・タラレバを考えればいくらでも思いつきます。そもそもレースフォーマットが5勝や7勝先勝だったら楽勝でした。第8マッチのタックで沈しかけたミスももったいなかった。それにあの微風の第13マッチ!あと2-3ノットでも風が上がっていれば、40分のタイムリミット内にフィニッシュ出来たはずです。
そんなエミレーツのタラレバや、オラクルに課せられた−2点のペナルティなど、すべての条件が重なっての奇跡的な最終決戦でした。いやー面白かった。毎朝5時に起きるのは辛かったけど、全19マッチすべてライブで見ちゃいましたよ。
前半はエミレーツの方が速かったけど、後半は立場が逆転したのはなぜなのか?最大の変化はアップウインドフォイリングだと思います。ルイヴィトンカップの頃は21-22ノット程度だったアップウインドの走りが、カップ終盤には頻繁に30ノットを超えていました。角度を多少犠牲にしても、高いVMGを得られるフォイルのトリムを見つけたようです。両チームがアップウインドでフォイリングしだした時から、アドバンテージがオラクルに移ったように思います。同じ角度ならスピードがいいし、同じスピードなら角度が良かった。
そしてロールタック。オラクルのタックはレガッタ中に劇的に向上しました。回頭中も片ハルしか接水させない、ロールタックのようなバランスで、ボトムスピードでも15ノットを切らないようなロスの少ないタックを身につけました。どのレースも8回から10回のタックをしているので、このタックの向上は非常に大きかったと思います。
ダウンウインドは序盤から互角でしたが、パフが入った時の挙動を見ていると、エミレーツの方が基本的にフォイルの仰角が大きいように見えました。スピードが増したときに僅かにバウが上がり、より高く飛ぼうとしていたからです。オラクルは常にエミレーツよりもバウが下がっていて、フォイルからのリフトを得るよりも、抵抗を減らしてスピードを増すことを重視しているように見えました。
このフォイルセッティングやトリムは決定的に重要で、モスでも常に試行錯誤しているポイントです。最大の敵がキャビテーションなのも一緒です。フォイルのサイズやセクションが最適化して、キャビテーションを抑えることができれば、次回大会では50ノットを超えるだろうと両スキッパーが言っています。50ノットって、つい最近までスピードトライアル専用のボートが超えられなかった壁の速度ですよ。そんなスピードでレースができる日が本当に来るのかな?すごすぎる。
あぁそれにしても、エミレーツ・・・ディーン・バーカーの表彰式でのスピーチは泣けました。彼らのいまの心境を思うと、ホント辛いですね。勝って欲しかった。限りなく勝者に値する敗者でした。なまじ有利な状況にいたために、少し保守的すぎたのかな?
今回のACは明らかにセーリングスポーツの限界を広げ、ひとつ上のステージへ上げてくれたと思います。ありがとうラリー・エリソン。ありがとうラッセル・クーツ。おめでとうオラクルチームUSA。そして、ありがとうエミレーツチームニュージーランド!!
[…] 2014年のオラクル vs エミレーツ、この競り合いがフォイリングでエラいことになっています。 33秒くらいからご覧ください。ドキドキします。 http://www.sailfast.jp/blog/?p=5004 […]