今日はこの話題に触れない訳にはいきません。元470級世界チャンピオンであり、現役スナイプセーラーでもある甲斐幸氏が、関東スナイプ参戦中の江の島沖で突然落水し、そのまま帰らぬ人となりました。心筋梗塞とのことです。
イギリスへの移動中にネットから訃報が入り、言葉を失いました。我々の世代のディンギー乗りで、甲斐幸の名前を知らない人間はいません。1979年にオランダ・メデンブリックで開かれた470世界選手権で日本人として初優勝。他にもレーザー、スナイプ、J/24など数々のタイトルを獲得された天才セーラーでした。
これだけの実績がありながら、主流派ではなく、いつも人と違うアプローチを取る異端児であろうとされていたイメージがあります。僕がまだ10代でスナイプに乗っていた頃、国内では甲斐さんが無敵でした。世界を相手に孤軍奮闘するその頃の甲斐さんが、雑誌のインタビューで「ぱっと振り返った時に人と同じくらいのスピードだったらダメなんだよ。やられてると感じる。ドカーンと勝っていないと不満なんだ」と答えていたのを鮮烈に覚えています。
憧れのセーラー甲斐さんと直接レースで戦ったことはほとんどありません。でも強風にこだわって、スピードを追い求める甲斐さんの姿勢には非常に大きな影響を受けました。強風で突っ走ってこそのヨットだろう。そんなメッセージを常に背中から発信し続けた方でした。還暦を過ぎても現役にこだわり大好きなスナイプに乗ったまま亡くなるなんて、不謹慎な言い方かも知れませんが、最後までレジェンドな甲斐さんらしいなと感じてしまいます。
甲斐さん、数カ月前のKAZI誌で「2020年の東京オリンピックではナクラ17に挑戦したい」とおっしゃっていましたね。僕が25年前に高校のヨット部に入ったとき、本屋で手にしたのが「世界チャンプ甲斐幸のディンギーセーリング」でした。あなたの教本でヨットを覚えた男が、四半世紀を経てそのナクラで世界に挑戦しています。いつか僕もそちらに行った時には勝負させてください。
あなたが勇気づけたセーラーは日本中にたくさん残っています。ありがとうございました。心よりご冥福をお祈りいたします。