明朝早くから家族でクルージングなのですが、ちょいと酔っぱらったついでに勢いで書いちゃいます。僕がロンドン五輪のレースをネットで見ていて、最も衝撃を受けたシーンをやっとYouTubeで発見したので紹介したいのです。
それは男子470の第2レース、ベルチャー/ペイジの第4マーク回航直後です。53:55からのシーンを見てください。(YouTubeページに飛ばないと見えません)
AUSが5位で回航後、スピンセット中に接近するイタリア艇に気づくのが遅れ、急激にラフして避ける様子が映っています。この後彼らは720度回転のペナルティーを履行し、このレース9位でフィニッシュしました。
僕はこのシーンをライブストリーミングで見ていて、ベルチャーはやっぱり化け物だ!と思いました。なぜだか分かりますか?
状況を整理しましょう。彼らベルチャー/ペイジは、ワールド3連覇を達成し、今年の春のレースも連戦連勝で、押しも押されぬ金メダル候補としてこのオリンピック初日を迎えました。とはいえ舵を持つベルチャーは初めてのオリンピック、その初日です。相当緊張していたはずです。
第1レースこそ無難に3位でフィニッシュしましたが、続くこの第2レースではスタートでX旗が揚がり、彼らはリコールじゃないのに解消しに戻りました。1マークを18位と大きく遅れて回航。しかもライバルのイギリスはダントツを走っています。焦るでしょ。僕なら焦る。
その位置から彼らはサイド下で10位まで上がり、2上でなんと5位までジャンプアップ。そしてこのシーンなんです。風下から近寄るのは運悪くイタリアの悪童ガブリオ。渾身の力を込めて「プロテーーースト!」と叫んだに違いありません。
危険を察知したベルチャーは、急激にティラーを切るその刹那にスピンハリを切っています。スピンを飛ばしながらラフしているんです。僕はこのベルチャーの反射的な動きに度肝を抜かれました。もし20ノット強のこのコンディションでスピンを孕ませたままラフしたら、いかなベルチャー/ペイジといえど、絶対に沈しています。絶対に。
状況から言っても、スタートの失敗をやっと取り戻しかけたところのこのケース。泣きっ面に蜂な心境だったはずです。冷静さを保てと言う方が酷な状況です。彼らがこんなイージーなケースを起こしてしまう時点で、やはり動揺もあったんでしょう。でもそこでスピンハリを切った。
もしここで沈していたら、最悪の初日になっていただろうし、最終結果も違っていたかも知れません。ガタガタと崩れる切っ掛けになっても全然おかしくない。初めてのオリンピックの初日が悪いと、ウィルモット/ペイジすらアテネで苦杯をなめる経験をしています。
でも彼らは違いました。初日を3-9で終えた彼らは、2日目以降に2-1-1-1と存分に実力を発揮していき、見事金メダルを獲得するのです。
ここからは私見ですが、初日を耐え忍んだベルチャーたちに、既に女神は微笑んでたように感じます。あの瞬間にスピンハリを切れるのがベルチャーの強みだし、恐らくネイサンやトムも同様だと思います。彼らは考えないでも反射的にフネを危険な状態に晒さないよう行動できるのかなと。考えてたら絶対に間に合わないし、ああいう反射的な行動はひたすら470の練習を積み重ねても、なかなか身につかないんじゃないかと思うのです。
やつらが持つ、あの野性的な感覚を磨くには、やはり幼少期から積み重ねたセーリング経験の幅と厚みがモノを言うんでしょう。ノースセールの白石に表現を借りれば、「海力(うみぢから)」が強い。骨の髄までセーリングが染みついて、フネと身体が一体化してますね。いいもん見させてもらいました。あーやっぱ敵わないなと思わざるを得ません。
っていうか、こないだベルチャーが来た時に聞けばよかったな。今度会ったら絶対にあのスピンカットについて聞いてみよう。
YouTubeではオリンピックの公式チャンネルから大量のHD動画を無料で観ることができます。ホントいい時代になりました。セーリングが上手くなりたいと思う学生やジュニア・ユースは、こういう動画を沢山観るべきです。いろんなヒントが山ほど詰まってますよ。