ここ数日、ジュニアアカデミーの教本に載せるテキストを書いていました。子供たちにセーリングの奥深い魅力を感じてもらうために、ここ数年のレクチャーで語ってきたことをまとめたものです。基本的に子供の目にしか触れないテキストなので、小学生でも理解できるように、何度も添削を重ねてここまで仕上がりました。原稿を送る前に、先にここに載せるので、さらに分かり易く伝わりやすい文章へと添削していただければと思います。
ジュニアアカデミー用テキスト:仮題「地球がフィールド」
みなさんは普段練習している海が、世界中の海とつながっていると意識したことがありますか?朝マリーナから出て、夕方同じマリーナに戻る毎日では、あまり考えたことがないかも知れませんね。ヨットは必要な装備と風さえあれば、どこまででも走って行ける乗り物です。世界一周も夢ではないんですよ。
実際にヨットには世界一周レースがあります。他のスポーツに世界一周レースなどありません。セーリングは、あらゆるスポーツの中で最も大きいフィールドを持っています。あまりにも大きいので、セーラーは距離や速さを表すのに独特の単位を使います。みなさんもマスターして、一人前のセーラーの仲間入りをしましょう。
みなさんは、自分が広大な海のどこにいるのかを正確に伝えられますか?陸の上なら住所を伝えられますが、海の上には住所がないので難しいですね。でも陸上に地図があるように、海上には海図があります。そして海図にはグラフ用紙のように、縦横にたくさんの線が引かれていて、その線には角度が書いてあります。地球は丸い球の形をしているので、角度でしか位置を正確に表せないのです。南北方向の角度を緯度、東西方向の角度を経度といい、たとえば北緯35度15分20秒、東経138度25分30秒というように、細かい角度で自分のいる場所を表します。(ちなみに緯度ゼロは赤道、経度ゼロはイギリスのグリニッジ天文台が基準になっています)
では、地球の円周は何キロでしょう?もともとメートルという長さの単位は地球の円周を基準に決められました。赤道から極点までの距離の1,000万分の1が1メートルです。そして円周はその4倍なので4万キロになります。覚えやすいですね。でも昔からセーラーは、海上で距離を表すのにメートルではなく、マイル(正確にはノーティカルマイル、日本語では海里)を使います。なぜならマイルは角度を元にした単位だからです。
1マイルは緯度経度の1分にあたる距離です。1分とは1度の60分の1。海図のマス目はそのままマイルに換算できるから便利なのです。そして1時間に1マイル進む速さのことを、1ノットといいます。ヨットのスピードも、風速も、潮の流れも、海上ではすべてノットで表します。たとえば20マイルの距離を走るのに、自艇の速さが5ノットなら4時間で目的地に着くと分かります。じゃあ1ノットの向かい潮があったら?答えは5時間です。このように、海の上で距離と速さを表すにはマイルとノットの方がふさわしいのです。
みなさんも海の上ではマイルとノットを使いこなしましょう。1マイルは1,000万メートルを90度で割り、それをさらに60分で割った1,852メートルです。ちょっと覚えにくいですね。でも魔法の覚え方があります。カレンダーを見てください。1日の下は8日ですね?その下は15日で、その下は22日。1マイルの距離は偶然、このカレンダーの数字の1の位を並べた、1,852メートルなのです。そして1ノットとは時速1,852メートルなので、秒速にすると約0.5メートルになります。たとえば風速20ノットとは、約10メートル/秒ということです。そんなに難しくないでしょう?
この地球全体の7割を占める海を、風という、地球が生み出す力を使って自由に走り回れるのは我々セーラーだけです。頑張って練習すれば、ヨットはどんどん速く走り、どんどん遠くまで行けるようになります。みなさんがいま練習で身につけている技術や知識は、いずれ大海原に出て行くようになっても、ずっと役に立つ大事な基本なんだということを忘れないでください。
ディンギーセーリングの頂点はオリンピックや世界選手権ですが、もっと大きなヨットでは世界一周レースをしている人たちもいます。その人たちにとってセーリングはスポーツというより冒険に近いでしょう。また、夫婦や家族でゆっくり、のんびりと世界一周をしている人たちもたくさんいます。その人たちにとってのセーリングは生活そのもの、人生そのものです。
セーリングの魅力は、セーリングを続ければ続けるほど深く、大きくなっていきます。みなさんは幸運にも、その仲間入りをしました。たとえ辛いことや苦しいことがあったとしても、その先に必ず大きな喜びが待っています。ご両親や指導者の方に感謝の気持を忘れず、長くセーリングを続けて、世界へ羽ばたくスケールの大きなセーラーへ成長してください。ヨットはみなさんの夢の続く限り、何万マイルでも遠くへみなさんを運んでくれるでしょう。